「人生に終わりがある」と知ることが努力を生むという話~名古屋心療内科コラム




「死」を意識することはネガティブじゃない
今回は鎌倉時代の禅僧・道元の教えを題材に、
「人生の終わりを意識することが努力の原動力になる」
というテーマを解説します。
一見すると「死を意識するなんて怖い」「気が滅入りそう」と感じるかもしれません。
しかし心理学では、死を意識することが逆に生きる力になるという研究が数多くあります。
これは「テロマネジメント理論(Terror Management Theory)」と呼ばれる理論にも通じます。
人は死の不可避性を意識すると不安を感じますが、その不安を和らげるために
「自分の人生に意味を与える行動」を選ぶ傾向があるのです。
「明日から頑張ろう」では動けない
私たちはつい
「明日から本気出す」 「時間ができたら始める」
と先延ばししてしまいがちです。
心理学者 ピーター・ゴルヴィッツァーが1999年に提唱した
「実行意図(Implementation Intention)」 という戦略があります。
これは、
「もしXが起きたら、Yをする」
という具体的な行動プランをあらかじめ決めておくことで、
実際に行動が起こりやすくなるというものです。
たとえば、
- 「朝起きたらストレッチをする」
- 「帰宅したらランニングウェアに着替える」
と決めておくだけで、行動の実行率がぐっと高まります。
逆に、このような実行意図を持たないと、
人はやるべき行動を先延ばししてしまいやすいとされています。
人生が有限であることを意識すると、
行動の優先順位が自然とはっきりしてきます。
「明日でいいか」ではなく、
「今日やろう」 という気持ちが生まれるのは、
「自分に無限の明日があるわけではない」と気づいたときなのです。
志を持つ人は「生きた証」を残そうとする
道元は「努力する人間には志がある」と言いました。
この「志」とは、心理学で言うところの 自己超越的目標(self-transcendent goals) に近いものです。
- ただ生活のためではなく
- ただ義務感のためではなく
- 「自分が生きた証を残したい」という願いのために
人は努力するのです。
自己超越的目標を持つ人は、幸福感や人生満足度が高いことも分かっています。
これは「自分の存在が誰かの役に立つ」という感覚(貢献感)が
メンタルヘルスを保護する働きをするからです。
今日からできる実践ステップ
「でも何からやればいい?」と思った方へ向けて、
まずはこんな小さな行動から始めてみましょう。
1. 人生に終わりがあると静かに思い出す
一日の終わりに、少しだけ目を閉じて考えてみます。
「もし今日が最後の日だったら、どんな一日を過ごしたかっただろう?」
そう問いかけるだけで、明日が少し大切に思えてきます。
2. 小さな一歩を今日から始める
大きなことをしなくていいのです。
- 机の上を少しだけ片づける
- 本を1ページだけ読む
- いつもより深く深呼吸する
ほんの小さな行動が、心の流れを変えてくれます。
3. 自分が残したい証を考えてみる
「自分らしく生きたな」と思える瞬間を、思い出してみてください。
- 誰かに優しくしたとき
- 好きなことに夢中になったとき
- 自分を少し褒められたとき
その感覚を、明日もう一度つくるために、ちいさな行動を一つ決めましょう。
おわりに
- 人は死を意識すると行動の意味を求める
- 限られた時間だと知ることで、今日の一歩が大切になる
- 志=自己超越的目標があると、努力が自然と続く
人生に終わりがあると考えることは、暗いことではありません。
むしろ、今を大切にするためのきっかけになります。
今日一日を、少しでも「生きた証」を残せるように過ごしてみませんか。
今回の話、何か少しでも参考になることがあれば幸いです。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
(完)