それ以外の方法が思いつかなかったお嬢さま。~名古屋心療内科マンガ



◆人が対立する最大の理由

人間関係がうまくいかないとき、
私たちはつい「相手が悪い」「分かり合えない」と考えてしまいます。

でも心理学では、
人が対立する最大の理由は「性格」ではなく「状況」だと考えられています。

そのことを、とても分かりやすく示した有名な実験があります。

◆ ロバーズ・ケーブ実験が教えてくれること

1950年代、社会心理学者のムザファー・シェリフは、
アメリカで行われたサマーキャンプを使って、ある実験を行いました。

参加者は、特別な問題のない普通の少年たち。
彼らを二つのグループに分け、それぞれ別々に生活させました。

最初は仲良く過ごしていた少年たちも、
「どちらのグループが勝つか」という競争を始めると、
次第に相手を見下し、悪口を言い、敵意を向けるようになります。

つまり、人は
競争させられるだけで、簡単に対立する
ということが分かったのです。

◆ 対立はどうすれば解消できるのか?

では、仲が悪くなった二つのグループを、
どうすれば元に戻せるのでしょうか。

シェリフが行ったのは、
「話し合い」や「仲良くしなさい」という指導ではありませんでした。

代わりに用意したのは、
どちらか一方だけでは解決できない問題です。

たとえば――
キャンプ全体の水道が壊れてしまい、
両グループが協力しなければ修理できない状況を作りました。

すると少年たちは、
「相手をやっつける」ことよりも
「一緒に問題を解決する」ことに意識を向け始めます。

協力する時間が増えるにつれ、
敵意は自然と薄れ、やがて笑顔や会話が戻っていきました。

◆ なぜこれが効いたのか?

ポイントはとてもシンプルです。

人は、
「私たち」と「彼ら」に分かれているときは争いますが、
「同じ目的に向かう仲間」になると、対立しにくくなります。

心理学的には、
敵対関係よりも“共通の目標”のほうが、人の心を強く結びつける
ということが示されたのです。

◆ 日常生活でも、これは起きている

この仕組みは、特別な実験室の中だけの話ではありません。

たとえば夫婦関係。
ケンカが増えているときほど、
「どちらが正しいか」を争いがちになります。

でも、
子育てや家計管理、将来の計画など
一緒に向き合う課題があると、
「対立する相手」から「協力するパートナー」へと意識が変わります。

職場でも同じです。
個人同士を比べる環境では対立が生まれやすく、
チームで目標を共有していると結束は強くなります。

◆ 争う前に、ミッションを持とう

ロバーズ・ケーブ実験が教えてくれるのは、
「人は争いやすい存在だ」という悲観ではありません。

むしろ――
人は、協力できる条件さえ整えば、関係を立て直せる
という希望です。

もし人間関係がギスギスしてきたら、
「相手を変える」前に、
「一緒に取り組めることは何か?」を考えてみてください。

それが、関係を壊さずに前へ進む、一番現実的な方法なのです。

今回の話、何か少しでも参考になることがあれば幸いです。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
(完)

名古屋
官越いやし|ゆうメンタルクリニック心療内科・精神科

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